WEB版 紙成り模型塾


このページはとれいん誌366号(2005年6月)に掲載された、「紙成り模型塾」の記事をアップしたものです。
記載の記事は、基本的に雑誌掲載記事をそのまま掲載しました。
最後に「あとがき」を書き下ろしました。

紙成り模型塾

第六講

講師:村松 努

 みなさん、こんにちは。このたび講師を仰せつかりました村松努と申します。梅原先生の103系講座の際に生徒としてお邪魔したのがきっかけで、教壇?に立たせていただくことになりました。至らぬところの多い教師ですが宜しくお願いいたします。

 
【今回の題材】

 クモハ73をはじめとした、72系旧形国電が題材です。旧形国電としては全国区、食パン、切妻ですから比較的簡単?に完成しそうな電車ですから、今までのヘビィな題材に比べるとちょっと息抜きになるかも(笑) 今回は編集部さんに無理を言って、窓枠は薄い紙にしてもらいました。少しは切り抜く負担が軽減されると思います。型紙から製作可能な形式は、

クモハ73(旧63、500、600番台)
クハ79(旧63、300〜、920番台)

などが考えられますが、ちょっと自分で線を引けば中間車も可能だと思います。元気な方はぜひチャレンジしてみて下さい。


【ポイント】

 食パン、切妻で比較的簡単、と申しましたが、どうせ作るのなら絶対に抑えたいポイントをいくつか・・・
 譲れないポイントとしては、屋根Rが真っ先に挙げられると思います。切妻がゆえに、屋根Rが実車どおりのイメージになれば、概ねこの電車は成功と言えるのではないでしょうか。旧63、クモハ73の500番台、600番台でも2種類のR、と良く観察するとかなり違うことがお分かりになると思います。

 今回は木製屋根板を使うことが前提になっています。最近は再び屋根板の供給がよくなった気がしますので、その中から比較的使いやすいモノをご紹介します。

・旧63系・・・いさみや,中央堂模型 客車用

この屋根板は旧63系の屋根Rとバッチリ合います。屋根Rは無加工でOKです。但しちょっと厚みがありますので、側板を0.5mmほど低く切り出してください。(2006年1月現在、この屋根板は厚みを修正していますので、側板を低く切り出す必要はありません)

・クモハ73500、600番台、クハ79
300〜・・・いさみや、中央堂模型電車用

この屋根板はドンピシャ、というわけにはいきませんが少し高さを削って肩を落とすと似ると思います。

・クモハ73600・・・いこま工房屋根板B(2006年1月現在、中央堂、いさみやでも同じ厚さの屋根板が発売されました)

この屋根板はクモハ73600、クハ79300などのうちでも初期にあたる鋼板屋根ではない車輌に使うといいと思います。気持ち浅いので0.5mm位ペーパーで下駄を履かせて高さ調整するといいと思います。36mm幅ですので左右0.5mmづつ、詰めてください。

・クハ79920・・・いこま工房屋根板B(2006年1月現在、中央堂、いさみやでも同じ厚さの屋根板が発売されました)

 上記と同じ屋根板を使います。この電車は雨どいが埋め込まれています。側板は高さを29mmとしてください。
側板上の補強(3×3角材)を上辺から0.5mm下げて接着し、屋根板幅を幅を33mmにして側板に落とし込むようにします。車体高さが33.5mmとなります。


 では、問題のRをどうやって採寸するか、ですが、自分の場合は正面写真を35mmになるようにコピーして、その屋根Rに沿って屋根板を削っています。屋根Rが決まれば、箱にして屋根板を接着してから妻板を切り出せばOKです。(かなりアバウト・・・汗)

 次のポイントとしては、3段窓車の場合はこれを上手く切り出せるかが分かれ目になると思います。逆にこれを上手く切り出すことが出来るようになると、カッターナイフとはかなりイイ関係?になっているのではないかと・・・(笑)
 編集分のご好意で、窓枠は薄い紙になっています。カッターを一度引けばきりぬけているとおもいます。 ここは修行?だと思って頑張ってみて下さい。

 もう一つ、それはテールライトです。実車の写真を良く見てください。テールライトのケースはほとんど飛び出していないのです。103系とはかなり違います。


【作例について】

 作例として作ったのは、富山港線にいたクモハ73363とクハ79928です。
 今回は主にクモハ73の作例について解説をさせていただきます。
 3段窓の車は比較的早めに淘汰され変わりに全金車にすべて置き換えられました。写真も比較的少なく、最初はこの電車を作る予定ではなかったのですが、あるサイトにこの写真がアップされていまして、思わず飛びついてしまいました。クハ79928はそのころからいた全金製のクハでした。
 では、簡単にですが順を追って解説します。

1.車体を作る


写真1

写真2

写真3

写真4

写真5

写真6

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 側板、妻板は窓、扉等を抜いてからサフェーサーで下地処理をします。すなわち平板の状態で研磨するわけです。平らなので研磨性は抜群です。箱にしてからサフェーサーを塗るとくぼみ、隙間にサフェーサーが溜まり研磨しづらいのでこの方法にしています。窓枠、ドアも同じ方法で仕上げておきます。研磨が終わってから周囲を切り出し、ドア、窓枠を接着します。この状態で箱組みするとほとんど下地仕上げが済んでいることになり、後は突合せの隙間をパテ等で埋めて仕上げるだけとなります。突合せの仕上げには木片に耐水ペーパーなどを両面テープで貼り付けたものを使い、平面が出やすくしています。余裕があるときに荒目から細目まで用意しておくと良いでしょう。(写真1〜11)


写真7

写真8

写真9

写真10

写真11

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 なお、クハ79920にする場合は、車体側板の高さを29oで切り出してください。

 屋根板はクモハはいさみやで購入した客車用屋根板、クハはいこま工房の製屋根板Bを各々使っています。木製屋根板ですので木目を消す必要があります。普段は、缶スプレーの「溶きパテ」というものを厚めに吹き付けて乾燥後耐水ペーパーやタミヤのフィニッシングペーパーで研磨し、木目を消しています。作例ではリフォーム屋さんからもらった外壁塗装用のサフェーサーを筆塗りしていますが、あまり一般的ではないかもしれません。屋根板の木目を消してから車体に接着します。(写真12)


写真12

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 作例のクハは箱になってから「顔がなんか変・・・」なことに気がつきました。よく見ると若干屋根高さが足りない感じです。よく測ってみたら0.5mmほど高さが足りないことに気が付きました(大汗)角材の貼る位置を間違えていたのです。
 仕方なく屋根板に0.5mmの紙を貼り重ねて継ぎ目をパテで埋めてごまかしました。特有の埋め込み雨どいの表現は、屋根板の幅を33mm位に狭くします。側板上部内側の檜角材補強の取り付け位置を側板の上端から0.5o下げて接着します。ロの字型に妻板、側板を張り合わせてそこへ屋根板を落とし込むようにすると上手くいくと思います。

 内側の補強材は4×5のアングルと3×3の檜角材を使います。自分の場合はアングルに2mmのタップを切って床板をネジ止めできるようにしてあります。アングルの接着はゴム系接着剤で貼り付けそこにサラサラタイプの瞬間接着剤を流し込んで補強します。(写真13)


写真13

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2.ディティール


写真15

写真16

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 屋根板も接着され、電車らしくなりました。(写真15、16)ここから各ディティールをつけていきます。シル・ヘッダーは写真17の様に切り出してサフェーサー仕上げを済ませておきます。作例の雨どいは真鍮のパーツです。いさみやで扱っているゴツイものですが、旧形国電にはなかなか似合っているなぁ、と思います。(旧しなのマイクロ製らしいです)前面、貫通面のキャンパス止めにはKSモデル63用の真鍮パーツを貼りました。(写真18〜19)


写真18

写真19

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 パンタ周りの配管では、パンタ母線は0.7o、空気管と避雷器は0.3mmなどの真鍮線、配管止めはマッハ製、ピノチオのロスト、自作パーツなどを取り混ぜてあります。パンタ鉤はずしは一番車体端のテコのみピノチオのロストパーツ、それ以外はマッハの配管止めの切り取った後の廃材利用です。L字型に切り出して整形しています。線は0.1、0.2、0.3をそれぞれ使い分けをしました。(写真27)


写真27

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 模型は上から眺める機会が多いので、ついあれこれとくっつけてしまいますが、別に配管止めで固定しなくても真鍮線ベタ付けでもいいでしょうし、省略したっていいと思います。自分のやりたいようにするのが一番です。


3.下回り


写真22

写真23

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 床板はプラ板からの切り出しで、1oおよび1.2mmの貼りあわせです。1×1などのプラ棒で簡単に梁の表現をしてあります。(写真22〜23)
 床下器具は日光モデル、エコーモデル製を主に使い簡単にパイピングを施しました。前面、貫通面の空気管、ジャンパ栓受け、ステップなどは真鍮板にユニット化してあります。 エアータンクから出ている管は、タンク両端の突起をヤスリでちょっとなめて平らにし、そこにピンバイスで穴をあけて真鍮線を差し込んでいます。配管は適当ですが、横から見たときのシルエットに貢献していると思います。
 車体裾を這っている配管は2列はマッハの配管止め、太いほうは割りピンを使い平行に注意して穴の開けた床板に差し込んで固定しました。
 問題は台車です。このクモハ73363は市販されていないDT15を履いています。DT16でお茶を濁そうかと思いましたが、良い機会なのでチャレンジしてみました。ベースは日光モデルのDT16です。左右の一番外側の長穴をパテで埋めて、残りの長穴はふちについているHゴムのような突起を削り落とします。実物台車の写真を参考にエポキシパテを盛り付け、乾燥したらカッターナイフ、紙やすりなどで整形して出来上がりです。(写真24)


写真24

(写真をクリックすると拡大します)


4.塗装


 作例では金属部にマッハのシールプライマーを塗って、マッハの103系用スカイブルーをエアブラシで吹き付けています。塗装は深夜の12時過ぎにスタートし明け方4時ごろ終了しました。よい子の皆さんは決して真似しないで下さい(笑)自分の場合は深夜に塗装を始めることが多く、時間的な問題などがあって「晴れて乾燥した」ロケーションではほとんど塗ることが出来ません(汗)雨さえ降っていなければ御の字です。
 Hゴムは、失敗しても簡単にやり直せるリキテックスを使い烏口で引きました。傍らに綿棒と水の入った塗料皿を用意して、いつ失敗してもよいように備えておきます。 扉の「戸当たりゴム」の表現ですが、クモハはグレーに塗ったデカールを細く切り出しクリアーを吹き付ける前に貼り付けました。クハはデカールを貼り付けるのを忘れてしまい、塗装が全部終わってからマスキングをしてリキテックスを面相筆で入れました。
 インレタを貼り、艶を落としたクリアーでオーバーコートしました。クリアーはいさみやのものを使い、フラットベースをその日の気分で添加して吹き付けてあります。クモハのほうがクハよりも艶を落としてあります。下回りの塗装はいさみやの屋根色に黒、赤、グレーなどを少量混ぜてあります。クモハの屋根はいさみやの屋根色をそのまま使い、クハはマッハのグレーに適当に黒を混ぜて自家調色してあります。ベンチレーター、ランボードなどの屋根上パーツは灰色に塗ってから取り付けます。 
 

5.ガラスなど

 とうとう最後の工程までこぎつけました。ガラスなどを入れたら完成です。頑張りましょう。
 前面はすべてはめ込みガラスとしました。今回は前面窓を抜いた時点でガラスに前面を置いて針でトレースする作業を忘れておりましたので、現物合わせで切り出し、裏からガラスの僅かな隙間にクリアーラッカーを少し緩めて、面相筆で流し込みました。強度が心配ですが、前面ガラスのところを手で持ったりすることはないと思いますので、これでよしとしてあります。
 もちろん、わざわざはめ込む必要はないと思います。そのまま裏からペタン、と貼ってもいいと思います。もちろん上手くはめられたら、見栄えはかなり良くなりますよ。元気のある方はぜひチャレンジしてください。ガラスは比較的厚目が扱いやすいと思います。作例ではエコーモデルの0.4mm厚のガラスを使いました。 クハのアルミサッシはフジモデルのパーツを使って工期短縮を図りました(汗)
 すべてのガラスがついたら下回りとドッキングしてめでたく完成〜♪です。皆さん、出来ましたでしょうか。


【模型のことで、いつも思っていること】

 今はインターネットも普及し、資料も手軽に揃えられるようになりました。「作る」環境は以前の比べてかなり整っているように思えます。製作をする上でのポイントはいくつか書かせてもらいましたが、もっと大切なことがあります。今回の題材に限らないのですが、とにかく「完成」させることです。
 技法的なことは今までの紙成り模型塾諸先生方がご教示くださったことで概ねカバーできていると思います。あとは自分が作ってみて、やり易い方法を見つけることだと思います。講師のやり方が「正しい」のではなく、各々のやり方=自分がやり易い方法を確立しているのだと思っています。
 今回は悪いお友達の方々の作品も載せていただく機会がありました。見比べてみてください。同じ型紙を使ったはずですが、皆さんの個性がそのまま模型に現れていると思いませんか。だから楽しくて面白いんだなぁ〜、って。
 もし、一度もペーパー車輌を作ったことがなくて、でも作ってみたいと思っているあなた!時間がかかってもいいですから、ぜひぜひ手を動かし始めてみてください。一日5分でもいいですから工作を進めてみてください。必ず完成へと近づきます。
 
 恥ずかしながら、自分でもサイト(ホームページ)を開設しております。その中にも製作方法を紹介しておりますので、よかったらアクセスしてみて下さい。
(http://www7.ocn.ne.jp/~guroben/index.html)
 
 さて、もう時間が迫ってきました。これで授業を終了します。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。また、一緒に製作をしていただきました「生徒」の皆様、製作途中の作品を見せ合いながら苦しくも?楽しい時間を過ごすことが出来ました。本当にありがとうございました。

 最後に参考にさせていただいたサイト様(ホームページ)および文献をご紹介をさせていただき、関係者の皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

【参考サイト】

 「我が心の飯田線」様
 http://www10.ocn.ne.jp/~mc53001/

【参考文献】
 
 ・「レイル」1980年WINTER(プレスアイゼンバーン)
 ・ヤマケイレイルブックス7「20世紀なつかしの旧型国電」(山と渓谷社)
 ・「鉄道ファン」1996年1月(No417)(交友社)
 ・「鉄道ピクトリアル」2000年5月(No684)(鉄道図書刊行会)
        
 【あとがき】

 実は、「紙成り模型塾」を終えてふと思ったことがあります。
 それは、「とれいん」のこの記事を見ていただいた方々の中で、どれだけの方が付録の「型紙」を使って作ってくれたのだろうか、皆さんに役立つものであったのだろうか・・・などなど
 そりゃ、別にそんなこと気にしなきゃいいことなんですけど、「塾」と名前が付く以上、雑誌が発売になればなったでそれなりに気にしたりもします。改めて自分で誌面を見てみると、「もっと上手い書き方があったかなぁ〜」なんて後悔しきり・・・
#自分ではわかっていることを人に伝えるのは難しい・・・
 正直なところ、自分の模型製作は相当アバウトな部分があって、デティールを取り付ける段階ではほとんど取り付け位置などの寸法は測っていません。写真を見ながら「大体こんなところかな?」といった作業の繰り返しなのです。(わかる人にはわかっちゃう?!)
 でも、凄く勉強になりましたねー。人に伝えるためにはもっともっと工夫が必要なんだと。あ、別に堅苦しく考えているわけではなくて、せっかくの機会をもらったのなら少しでも多くの方にわかってもらえるようになれば嬉しいかな、って。で、今回はそれが上手く出来なかった悔しさも相当あったりします。だからといって、またやるか、と言われたら正直しんどい(笑)本当はもっと優れた模型を作る方がまだまだいらっしゃるはずで、そういった方々が順番で出ていただけたら一番良いと思っています。
 丁度この「とれいん」が発売される前後は、他の雑誌の掲載もちょこちょこあったり、DVDに出させてもらう機会があったり、後になってから振り返ったときに自分の(模型)人生の中で一番「乗ってた」時期になるんでしょう、多分。死ぬときにはいい思い出になるな〜。おまけに子供たちには「これは父親が生前に紙で作った模型だ」みたいな、「生きていた証??」の残ると思うし。(死んだからって模型売るなよ・・・笑)
 ということで、とりとめのないことを書いてしまいましたが、今の時点では割と正直な気持ちを書いてみたつもりです。
 (2006.2.17記)
(「あとがき」はWEBにアップするにあたり、新たに書き起こしました。)